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再び青春

 診察室で新聞を読んでいると、年齢90歳の女性が20歳年下の男性と仲良くなったが、最近、その男性が別の70歳台の女性と仲良くしているので、嫉妬が抑えられないとの人生相談がのっていた。
 いくつになってもこの方面は人生を彩るものだと苦笑してしまった。
 90歳の女性は青春再びである。ある程度年齢が行くと青春という言葉にはちょっとした懐かしさと差恥心と羨望感がいりまじるようになる。“青春とは心のありようであって、年齢ではない。いつまでも若々しさを失わず、前向きで生きていく姿勢である"などというが、青春という言葉はやはり青年にこそ相応しいであろう。老年には老春いう用語もあるが、これは心の活発さを表してはいない。そして、心のありようは体にも影響を及ぼす。
 50歳半ばの女性がやってきた。最近、下腹部に違和感があり、胸も変な感じがあるという。生理は40代後半でなくなった。診察すると子宮が閉経後にしては大きい、子宮内膜肥厚があり、おりものもホルモン活性を示している。“ホルモン剤とか何か、飲んでいませんか?"と聞くと飲んでないと返事、これはすこし危うい。子宮体癌も考えねばならない。
 ホルモン活性が50歳代遅くまであるときは、体癌と乳癌のリスクは高まる。そういった話をして、子宮体癌検査とホルモン検査を行った。違和感の原因はホルモン活性の上昇にあるのだろうが、急にホルモン活性が上昇した原因がわからない。閉経後の更年期障害に対してホルモン補充療法の話をすると、多くの女性が、ホルモンが乳癌のリスクを高めるとして怖がるが、こういうホルモンのリスクには結構無頓着である。これは情報がかたより、正しい知識が普及していないからだろう。
 数日後、生理ではない出血があると、再び来院された。体癌検診は異常なく、やはりホルモンのせいでしょうとの話になった。閉経して4~ 5 年たつのになぜホルモンがでて、出血するのかとの疑問は当然である。
 実をいうと、女性の閉経というのは結構あいまいなものなのである。閉経したと思っていても卵巣にはまだ、予備力がある。そこで以前同様の出血を経験した人の話をした。
 “52歳の女性、2年間生理がなかったが、あるとき同年齢の友達とある若い男性歌手の追っかけを始めた。とても楽しくて、うきうきとして生活に張りが出て、男性歌手を見るとドキドキするようになった。ある日、突然に生理がおこった。"そこまでの話をしていると、聴いていた患者さん、急に身震いをして、“鳥肌がたちました"といった。“思い当たることがあります。私も最近、若い男性俳優にあこがれるようになったのです。いまではそのことばかり頭に浮かびます。"
 やはりそういうエピソードがあったのか思った。それでホルモンが動いたのか、女性はいくつになっても“女"を秘めているなあというのが感想であった。 がしかし、数週間後、とあるコンサー卜会場でその患者さんを見かけることになった。かなり、年齢が下の若い男性と親密に楽しそうに話をしていた。近づかないようにして、そっと、その場を離れた。

(ある日のDr,Qの診察室日記より)  
※これはフィクションです。